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鈴木 達朗
ドイツ

ドイツ通信
~Probieren wir mal!~
(とりあえず、一緒にやってみよう!)

鈴木 達朗
宮城県出身。中学生からサッカーを始め、大学1年まで競技を続ける。サッカークラブも無い町で、一人でストライカーなどの雑誌を読んでは友人に薦め、「サッカーマニア」と呼ばれる少年時代を過ごす。中学では、クラブチームに所属。小学校で全国大会に出た選手たちを目の当たりにして、早々に挫折。頭を切り替えて、選手時代からコーチの目線で過ごす。学者になるつもりで渡った先のベルリンで、たまたま試合に誘われたクラブから、コーチになることを頼まれて、指導者になる。二足のわらじで大学も卒業し、現在に至る。タイトルは練習中に発する自分の口癖から取ったもの。
Webサイト:http://www.tatsurosuzuki.com/

ドイツ

不在で浮き彫りになったドルトムント香川真司選手の存在感

2018.03.13

みなさん、グーテンターク(こんにちは)! だいぶ更新期間が滞ってしまいました。すみません。

前回は、僕のチームに関する個人的な報告でしたが、今回はみなさんも興味があると思う話をしましょう。ドルトムントの香川真司選手についてです。残念ながら、香川は2月10日の第22節ハンブルク戦以来、ケガで戦列を離れています。しかし、この欠場がドルトムントで香川の存在の大きさを感じさせています。

今回は、香川のケガの直後のボルシア・メンヘングラードバッハ戦(2月18日)から、その理由を見ていきましょう。

この試合で、香川の代わりにドイツ代表のマリオ・ゲッツェがトップ下で出場しました。まずは、以前紹介したピッチの分割方法を参考にしながら、試合を見ていきましょう。

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図1:試合の立ち上がり。序盤はうまくバランスが取れていたが…

図1を見てみましょう。この図は、試合の立ち上がりの中盤3枚(ユリアン・バイグル、ゴンサロ・カストロの守備的MF2枚とトップ下のゲッツェ)の配置です。ボールの位置に対して、うまく逆三角形を形成し、ちょうど良い距離でハーフスペースと中央のスペースを3人でカバーし合っています。

ところが、試合が経過するにつれて、このバランスは徐々に崩れていきます。下の図2を見てみましょう。

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図2:前半なかば、ドルトムントのボール保持時。試合が進むに連れて、
動きすぎから選手間の距離がバラバラに…

この時点で、両サイドバックと両ウイングはロングラインのパスコースを確保するようにワイドに開き、横幅を確保しています。つまり、両サイドの大外のレーンは、すでにカバーされています。ここで問題になるのは、トップ下のゲッツェが、さらにセンターフォーワードのバチュアイを追い越しながら大外のレーンに抜けていくことです。これにより、中盤のスペースが大きく空き、ネガティブトランジションに対応できなくなると同時に、パスコースも限定されてしまうことになります。前半はスペース感覚が鋭いバチュアイがうまく引いて(赤い矢印)黄色のスペースを埋めていましたが、後半は前線で張っているように指示されたのか、相手DFラインの中央でポジションを取るようになりました。

ボール保持から不保持への切り替えの時点でも、ドルトムントは前半からポジションバランスが悪く、終始ピンチを招いていました。図3を見てみましょう。

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図3:ボールロストからネガティブトランジション時。
バイグルの右脇を埋めるのは誰なのか…絞るのか、開くのか…

ここでも、中盤の真ん中の3人とサイドバックの位置関係があまり良くなく、ゲーゲンプレッシングもはまらずに黄色のスペースから再三ボールを展開されて、ボルシア・メンヘングラードバッハに主導権を握られていました。この試合は、おそらくトップ下のゲッツェがボールサイドに動きながら数的優位を作る役割だったのだと思いますが、動きすぎと焦りからかあまりに早く縦にボールを要求し、バランスが崩れた状態での縦パスが多く、再三カウンターを受ける試合となりました。個人的には、バイエルン時代のペップ・グアルディオラやドルトムントの監督だったトーマス・トゥヘルがゲッツェを起用しにくかったのは、このあたりにあるのではないか、と思います。

とはいえ、この試合に関しては、守備的MFのひとりであったカストロもあまり有効なポジショニングができていなかったのも事実です。下の後半にカウンターを受けたシーン(図4)のひとつを見てみましょう。

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図4:後半、ボルシア・メンヘングラードバッハのカウンターを受けたシーン。
中央のスペースを埋める選手が大外に流れたために…

このシーンでは、左サイドの大外のレーンでボールを受けたウイングのシュールレがドリブルで中に入って仕掛けていきます。このプレーに対して、カストロは、大外のウイングのポジションに開いていきます。この時点で、距離を維持しようとしたバイグル、ゲッツェは左サイドにシフトし、幅を取ろうと逆サイドに張っていたロイス、ピシュチェクは右サイドに開いたままです。これにより、守備的MFで中央に残っていたバイグルの右脇に広大なスペース(黄色)ができます。

そのまま下の図5を見てみましょう。シュールレのドリブルは相手DFに阻止され、前述のスペ-スにボールが持ち出されます。ロイスは右サイドに張っていたために、右のハーフスペースを埋めきれず、スルーパスを受けようとして前に出たゲッツェも同様にカウンターに対応できません。

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図5:黄色のスペースから致命的なパスコース(赤)が無数にでき、
守備陣は的を絞れずに撤退…

この試合は、こういった状況でも、どうにか撤退しながらひとりでパスコースを制限し、DF陣がギリギリで失点を阻止できるように対応したバイグルの能力の高さが際立った試合でした。カストロ、ゲッツェは頑張ろうとすればするほど動きすぎ、ボールロスト時に全く対応できないシーンが目立ちました。仮に、彼らが開けたスペースを誰が埋めるのか、という約束事もハッキリしていないようでした。攻撃も焦りが目立ち、後方から追い越す動きで前にボールを要求すればするほど、ポジションバランスが崩れるという悪循環でした。こういう試合でも勝ち点3が取れることもあるので、サッカーは分かりません。スタッツを見てみましょう。

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図6:試合後のスタッツ:メンヒェングラードバッハはシュートを28本も打っている

ボルシア・メンヘングラードバッハは28本もシュートを放っており、ドルトムントの3倍以上です。そして、ゴールへ向かって直線的にアタックを仕掛けるボルシア・メンヘングラードバッハですが、この試合ではドルトムントの4倍に当たる8本もクロスを上げています。ここから、一方的な試合だったことが見て取れます。スイス代表GKのロマン・ビュルキの活躍がなければ5失点はしていたでしょう。

ここから、現在のドルトムントで香川の存在の大きさが際立った試合だったといえるでしょう。ドイツ杯でのバイエルン戦も含めて、ここまで一方的にドルトムントが押し込まれた試合はありませんでした。ケガで戦列を離れた直後の試合だけに、それだけ香川選手の不在の影響が浮き彫りになった形です。

ドルトムントでは選手としてCL優勝を経験し、監督としてもリーグ優勝経験もあるマティアス・ザマー氏は、現在ドイツの放送局『ユーロシュポルト』で解説者をしています。バイエルンでもディレクターとしてペップ・グアルディオラとともに働いていたザマー氏は、香川選手の「中盤で数的優位を作る動きとポジショニング」を褒めており、とりわけディフェンスラインとバイグルの間で行われるビルドアップを行う際に、適切なタイミングで顔を出し、確実にボールをさばき、チームのバランスを整えた後に前に出ていくセンスを評価していました。

傾向として、ザマー氏はビルドアップの噛み合わせの部分での数的優位を重要視しています。実際に、ここでの噛み合わせや枚数の変更で相手のファーストプレッシングのスイッチをずらすことにつながります。そして、ここでズレが生じると、全体の調整が必要になり、対応に遅れた場合は致命傷につながります。

香川というと、10番でゴールに絡む華々しいイメージがありますが、こういったオフ・ザ・ボールの戦術眼やポジショニングに注目すると、もっと香川のすごさがわかるかもしれませんよ。

長くなりましたね。今回はこの当たりで。チャオチャオ!

 

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